一級建築士の需要は、資格の希少性と担い手不足を背景に高い水準を維持しています。
大規模建築物の設計・工事監理を独占的に行える資格であることに加え、有効求人倍率は6倍を超え、企業からの引き合いは強まる一方です。
「今後もこの需要は続くのか」「転職市場でどれくらい評価されるのか」と気になっている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、公的データをもとに一級建築士の需要が高い理由と将来性、転職市場での具体的な価値を解説します。
資格取得を検討している方はもちろん、すでに資格を持つ方のキャリア戦略の参考としてもお役立てください。

監修:ジョブハウス建設 鈴木実(すずき・みのる)。技術士紹介歴35年、紹介実績1,200名を誇る建設コンサルタント業界の転職のプロ。
一級建築士の需要が高まっている4つの理由
一級建築士の需要が高まっている背景には、資格制度と業界構造の両面に理由があります。
ここでは、企業が一級建築士を求める代表的な4つの理由を整理します。
大規模建築物を独占的に扱える資格だから
建築士法では、学校・病院・劇場・百貨店といった大規模建築物の設計・工事監理を、一級建築士以外が行うことを禁止しています。
延べ面積や高さが一定規模を超える建物は、二級建築士では対応できません。
このため設計事務所やゼネコンは、案件を受注するたびに一級建築士の在籍を求められます。
逆に言えば、一級建築士がいなければ受注できる案件そのものが限られてしまうということです。
企業にとっては売上に直結する存在であるため、採用条件や年収面で優遇されやすい傾向があります。
ベテラン建築士の高齢化で担い手が不足しているから
建築士業界は50代以上の在籍者が多数を占め、若手の入職が長年抑えられてきました。
資格取得には実務経験と難関試験の突破が必要なため、退職者を短期間で補充することは困難です。
結果として、実務をこなせる中堅・若手の一級建築士は慢性的に不足している状態が続いています。
ベテラン層の大量退職が今後10〜15年で本格化するとの見方もあり、企業側は若手・中堅の確保を急いでいます。
未経験からのキャリアチェンジであっても、実務経験を積みながら資格取得を目指せる求人が増えているのはこうした背景があるためです。
今後は、資格取得支援制度を用意する企業がさらに増えていくと見込まれます。
老朽化ビルの改修・解体ニーズが増え続けているから
1970〜80年代に建てられたビルや集合住宅の老朽化が進み、改修・建て替え・解体の需要が増えています。
既存建築物を扱う案件は新築以上に構造や法規の知識が求められるため、経験豊富な一級建築士が重宝されます。
耐震基準を満たしていない建物の診断・補強設計は特に専門性が高く、対応できる人材が限られています。
新築需要が伸び悩む一方で、既存ストックを活用する仕事は今後さらに増えていくと見込まれます。
公共入札や大型プロジェクトで資格保有が必須条件になるから
自治体発注の公共施設や大型の再開発案件では、入札参加要件に一級建築士の配置が明記されるケースが少なくありません。
資格者がいなければ応募すらできない案件も多く、企業側の採用ニーズを押し上げています。
学校・庁舎・病院といった公共性の高い建物ほど、設計者の資格要件は厳格に定められる傾向があります。
そのため公共案件を積極的に受注したい企業は、一級建築士を複数名確保しておく必要に迫られています。
ここまで見てきた4つの理由はいずれも一時的な流行ではなく、資格制度や人口構成に根ざした構造的な要因です。
そのため、一級建築士の需要は今後も大きく崩れることなく続いていくと考えられます。


データで確認する一級建築士の需要と将来性
感覚論だけでなく、公的統計からも一級建築士の需要の高さと将来の見通しを確認できます。
登録者数・求人倍率・住宅市場の予測という3つの角度から、需要の実態を見ていきましょう。
登録者数38万人超が示す資格の希少性
日本建築士会連合会によると、一級建築士の登録者数は383,923人(令和7年4月1日時点)です。
日本の総人口と比べると、一級建築士は依然として希少な専門資格といえます。
しかも登録者数がそのまま現役で活動している人数を意味するわけではなく、実務から離れているベテランも含まれます。
実際に第一線で設計・監理を担える人材はさらに限られていると考えるのが実態に近いでしょう。
有効求人倍率6倍超えの採用市場
厚生労働省の一般職業紹介状況によると、建築・土木・測量技術者の有効求人倍率は6倍台で高止まりしています。
求職者1人に対して6件以上の求人がある計算で、専門職の中でも突出した売り手市場です。
他の専門職と比較しても高い水準にあり、企業間で人材の奪い合いが起きていることがうかがえます。
求職者にとっては、複数の企業から声がかかりやすく、条件面で有利に交渉を進めやすい環境といえます。
| 年度 | 有効求人倍率 |
|---|---|
| 2022年度 | 6.53倍 |
| 2023年度 | 6.61倍 |
| 2024年度 | 6.71倍 |
※建築・土木・測量技術者区分の有効求人倍率(パートを含む常用)
倍率が右肩上がりで推移していることからも、人材不足が一時的なものではなく構造的な課題であることが分かります。
今後も同水準か、それ以上の倍率で推移する可能性が高いと考えられます。
新設住宅着工数は減るが改修需要は伸びる
野村総合研究所の予測では、新設住宅着工戸数は2024年度の約82万戸から、2040年度には61万戸まで減少する見通しです。
一方でリフォーム市場規模は2040年に9.2兆円へ拡大すると見込まれ、新築から改修へと業務の重心が移っています。
持家・分譲住宅・貸家のいずれも着工戸数は減少する一方、既存建物を活かす仕事は相対的に増えていく計算です。
新築の設計経験だけでなく、改修・リノベーションに関する知見を持つ一級建築士は今後さらに評価されやすくなるでしょう。
出典:2040年度の新設住宅着工戸数は61万戸に減少|野村総合研究所
2040年以降を見据えた業界の変化
新築市場が縮小しても、既存建築物の維持・改修・除却には設計と法規判断ができる一級建築士が欠かせません。
省エネ改修や耐震補強など専門性の高い分野ほど、資格者の需要は今後も底堅く続くと考えられます。
脱炭素化の目標達成には、新築・改修・除却を組み合わせた取り組みが必要とされており、建築士の役割は単なる設計者にとどまりません。
今後は施主や自治体に対して改修の必要性や費用対効果を提案できる建築士ほど、市場価値が高まっていくと考えられます。
都市部と地方で異なる需要の傾向
都市部では再開発や高層建築の案件が多く、大規模プロジェクトに携わりたい人材の需要が高い傾向にあります。
一方、地方では公共施設の改修や空き家対策など、既存建築物に関わる案件が中心です。
どちらの需要が自分に合っているかは、携わりたい仕事の規模や暮らし方によって変わってきます。
転職先を選ぶ際は、勤務地だけでなく、その地域でどんな案件が多いのかまで調べておくと、入社後のギャップを減らせます。

一級建築士の需要が特に高い業界・職種
一級建築士の求人は幅広い業界に存在しますが、需要の高さや働き方には違いがあります。
転職先を検討する際は、年収だけでなく働き方や案件の規模感も含めて比較することが大切です。
ゼネコン・大手建設会社
大型商業施設やインフラ関連の案件を多く抱えるゼネコンでは、一級建築士の在籍が受注の前提条件になります。
年収水準が高く、大規模プロジェクトに携わりたい人に向いています。
設計部門だけでなく、施工管理や積算など幅広い部署で資格を活かせる点も特徴です。
組織としての福利厚生が整っている企業が多く、長期的に腰を据えて働きたい人にも向いています。
設計事務所・アトリエ系事務所
意匠設計にこだわりたい人材の需要が高く、コンペやプロポーザルへの参加には資格保有が条件となることが一般的です。
個人の設計力がそのまま評価されやすい環境です。
規模の小さい事務所ほど裁量が大きく、若手でも早い段階から責任のある仕事を任されやすい傾向があります。
その分、繁忙期の業務量は多くなりやすいため、働き方の希望とすり合わせて選ぶことが大切です。
ハウスメーカー・工務店
戸建て住宅が中心ですが、大型の複合施設や賃貸マンションを手がける企業では一級建築士のニーズが高まっています。
安定した給与体系と働きやすさを重視する人に選ばれています。
営業や施主との折衝機会が多く、コミュニケーション力を活かしたい人にも適した環境です。
研修制度が整っている企業も多く、資格取得支援を受けながらキャリアアップを目指しやすいのも魅力です。
独立・開業という選択肢
建築士事務所を開設するには一級建築士の登録が条件となり、独立という道も需要の高さを裏付けています。
実績と人脈次第では、雇用されるより高い収入を得ることも可能です。
一方で、営業活動や経理といった設計以外の業務も自分でこなす必要があります。
雇用時代に人脈や得意分野を築いておくことが、独立後の案件獲得につながります。
二級建築士との需要の違い
二級建築士は主に木造・中小規模の建物を担当でき、戸建て住宅の設計では十分に活躍できます。
一方で、学校や病院などの大規模建築物や、規模の大きい非木造建築物の設計・監理は一級建築士でなければ対応できません。
企業がより幅広い案件を受注しようとするほど、一級建築士へのニーズは相対的に高くなります。
| 勤務先 | 年収目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| ゼネコン | 800万円〜 | 大型案件中心 |
| 設計事務所 | 600万円〜 | 意匠設計に強い |
| ハウスメーカー | 500万円〜 | 安定した働き方 |
| 独立開業 | 実績次第 | 収入の上限なし |
※年収はあくまで目安であり、経験・地域・企業規模により変動します。
どの勤務先にもメリット・デメリットがあるため、自分がどんな働き方を望むのかを軸に選ぶことが後悔のない転職につながります。


需要を裏付ける一級建築士の年収・待遇
需要の高さは、年収や待遇の水準にも表れています。
ここでは平均年収の目安と、需要の高さを転職活動に活かす考え方を紹介します。
平均年収は700万円前後
一級建築士の平均年収はおよそ700万円で、日本の給与所得者全体の平均を大きく上回ります。
大手ゼネコンや設計事務所では800万〜1000万円台に達するケースもあります。
役職やマネジメント経験が加わることで、年収はさらに上振れしやすくなります。
資格を持たない技術者と比べても差は明確で、資格取得が収入アップに直結しやすい職種といえます。
| 区分 | 平均年収 |
|---|---|
| 男性 | 約653万円 |
| 女性 | 約561万円 |
出典:一級建築士は年収3000万も可能?平均年収や転職・独立で収入アップする方法も解説|ビーバーズ
男女差は業界全体の課題でもありますが、実力主義の設計事務所やアトリエ系では性別によらず評価される企業も増えています。
資格手当で月1万〜3万円上乗せされる
多くの企業が一級建築士の取得者に対し、月1万〜3万円程度の資格手当を支給しています。
基本給とは別に上乗せされるため、資格保有そのものが直接収入につながります。
年間にすると12万〜36万円ほどの差になり、賞与の算定基準に含まれる企業もあります。
資格手当の金額は企業によって幅があるため、求人票や面接時に確認しておくと安心です。
企業規模・業種で年収に差が出る
同じ一級建築士でも、企業規模や業種によって年収レンジは大きく異なります。
大規模組織ほど手当や賞与が手厚く、中小事務所では裁量の広さと引き換えに給与水準がやや控えめな傾向があります。
年収だけでなく、担当できる案件の規模や裁量の大きさも合わせて比較することが重要です。
将来的に独立を視野に入れているなら、経験を積める環境かどうかも判断材料になります。
同じ年収額であっても、案件の裁量や将来のキャリアパスまで含めて比較すると、自分に合った選択がしやすくなります。
需要の高さを転職に活かすポイント
売り手市場だからこそ、複数社を比較して条件交渉できる立場にあることを意識しましょう。
資格手当の有無や案件規模、独立支援制度など、給与以外の条件も確認することが大切です。
在職中に転職活動をする場合は、現職の繁忙期を避けてスケジュールを組むとスムーズです。
年収交渉は自己申告だけでなく、業界の相場を把握したうえで臨むと説得力が増します。
複数の求人を比較検討することで、自分の市場価値をより客観的に把握できるようになります。

一級建築士としての需要をさらに高めるキャリア戦略
資格を取得した後も、専門性を磨くことで需要はさらに高められます。
同じ資格を持つ人材の中でも一歩抜きん出るために、意識しておきたい4つのポイントを紹介します。
省エネ・バリアフリーなど専門分野で差別化する
ZEB・ZEH対応やバリアフリー設計など、法改正や社会ニーズに直結する専門分野を持つ建築士は、同じ資格者の中でも一段高い評価を受けます。
専門分野は案件獲得だけでなく、転職時のアピール材料としても有効です。
特定の分野に強みを持つ建築士は数が限られるため、企業側から指名で声がかかることも珍しくありません。
興味のある分野があれば、資格や講習を通じて早めに専門性を打ち出しておくとよいでしょう。
BIM・DXスキルを身につける
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用が標準化しつつあり、対応できる人材の需要は高まっています。
設計の効率化だけでなく、施主や施工者との合意形成をスムーズにするスキルとしても重視されています。
公共案件を中心にBIM活用が求められる場面が増えており、対応できる人材はまだ限られているのが実情です。
従来の設計スキルに加えてBIMを扱えることで、転職市場での希少性はさらに高まります。
マネジメント経験を積んで市場価値を上げる
プロジェクト全体を統括するマネジメント経験は、管理職ポジションでの転職において大きな武器になります。
設計力に加えて人員・工程管理の実績があると、需要はさらに高まります。
若手・協力会社との調整力や予算管理の経験は、設計スキルだけでは測れない評価ポイントです。
将来的に独立や役員登用を目指す人ほど、早い段階からマネジメント経験を積んでおくことをおすすめします。
転職エージェントを使って非公開求人にアクセスする
需要の高い資格であっても、条件の良い求人の多くは非公開で募集されています。
建築業界に特化した転職エージェントを活用すれば、市場に出回らない案件や年収交渉のサポートを受けられます。
自分では気づきにくい市場価値や、条件面での交渉余地をアドバイザーから客観的に把握できるのも利点です。
資格取得を目指す段階の人は、建築技術教育普及センターの一級建築士試験ページで最新の試験日程を確認しておくと安心です。
資格取得後も学び続ける姿勢を持つ
法改正や新しい工法、環境基準は年々更新されており、資格を取って終わりではありません。
継続的に知識をアップデートし続ける建築士ほど、長期的に需要の高い人材であり続けられます。
セミナーや業界誌、実務での経験共有など、学び続ける仕組みを自分の中に持っておくことをおすすめします。


よくある質問(Q&A)
ここでは、一級建築士の需要に関してよく寄せられる質問にお答えします。
一級建築士の需要は今後もなくならない?
独占業務を持つ資格であり、老朽化建築物の改修や耐震補強など新たな需要も生まれているため、短期的に需要がなくなる可能性は低いと考えられます。
ただし、新築市場の縮小や高齢化による人材構成の変化には注意が必要です。
今後は新築設計に加えて、改修・耐震・省エネといった分野に対応できるかどうかが、需要の分かれ目になっていくでしょう。
変化の方向性を見極めながらスキルを更新していくことが、長く需要の高い人材であり続けるコツです。
未経験や年齢が高くても一級建築士として転職できる?
実務経験があれば、年齢を問わず転職のチャンスはあります。
特に人手不足が深刻な設計事務所やゼネコンでは、即戦力として中途採用に積極的な企業が増えています。
年齢が高くても、これまでの実績やマネジメント経験を具体的に示せれば、十分に評価される可能性があります。
ブランクがある場合は、直近の実務内容や継続的な情報収集の姿勢を伝えることで不安を払拭しやすくなります。
一級建築士の需要は地方でも高い?
公共施設の改修や地域の再開発案件は地方でも一定数存在し、資格者不足はむしろ地方の方が深刻な場合があります。
都市部に限らず、幅広いエリアで需要が見込めます。
地方では若手の一級建築士自体が少なく、条件次第では都市部以上に好待遇で迎えられるケースもあります。
Uターン・Iターン転職を考えている人にとっても、需要の高さは追い風になります。
AIの普及で一級建築士の需要は減る?
図面作成など定型業務の一部はAIやBIMに置き換わる可能性がありますが、法規判断や工事監理の最終責任は資格者にしか担えません。
AIを使いこなせる建築士は、むしろ需要が高まると考えられます。
単純作業をツールに任せ、企画提案や合意形成に注力できる人材ほど、これからの市場では評価されやすくなるでしょう。
技術の変化を脅威ではなく武器として取り入れる姿勢が、これからの需要を左右するといえます。
まとめ
一級建築士の需要は、独占業務・人材の高齢化・老朽化建築物の増加という複数の要因に支えられ、今後も底堅く推移すると考えられます。
有効求人倍率6倍超という市場環境を追い風に、専門分野やマネジメント経験を磨けば、転職市場での価値はさらに高められます。
新築だけでなく改修・耐震・省エネといった分野にも視野を広げることで、長期的なキャリアの安定にもつながります。
データが示すとおり、一級建築士は今後10年、20年というスパンで見ても求められ続ける専門職です。
自分の強みを整理し、需要の高さを正しく評価してくれる転職先を見つけることが、キャリアアップへの近道です。
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著者:ジョブハウス建設 編集部
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